【奥伝を頂いて】先前照水

 浅草の演奏会で、初めて生で琵琶の音色を聞かせて頂く機会を得ました。10年前のことでした。その時知り合った関汪水先生、古澤史水先生、樋渡蓬水先生と三氏の達人が琵琶を始めないかと進めてくださいましたが、日本史上の人物や事柄を弾き語るものと聞いて即答出来ず、躊躇してしまいました。伝統ある日本古来の楽器が私に奏でられる筈がない、と同時に、日本史や時代劇には興味が無い事もありました。
 その次お会いする事になり、お師匠様へ樋渡先生に、稽古の時の送迎は逗子駅からの車で30分程の道程を、高橋洋水先生が引き受けて下さるとの事、そこまで親切にして下さるならと、自分の無知識さに不安を感じながらの入会でした。あの時に三氏との出会いがなければ琵琶との縁もなかった事でしょう。今では三氏にとても感謝しております。
 先生から琵琶を借りてのスタートでした。ところが右手首と指にしびれがあり、長時間バチが持てず、ほぼ2年くらいは家での練習も不可能でしたが、徐々に快方に向い、石田琵琶店様に作って頂けるに到りました。
 樋渡先生の弾き語りはメリハリがあってとても素晴らしいと思います。熱心に教えていただきながら未熟で、申し訳なく、猛省しきりです。特に弾法の微妙な音の出し方は非常に難かしく、奥深さを感じます。苦戦しております。難かしい分、少しでも糸口が掴めると、とても嬉しく、達成感を覚えます。
 これ迄本気で取組まず、ノラリクラリ中途半端な気持ちでした。常日頃、先生に奥伝を目標にと励まされ、永い道程でしたが、先生のお陰でこの度、奥伝を拝受できました。本当に有難うございました。今後奥伝に恥じないよう精進致します。特に女性に必要な琵琶の副産物に着付けがありますが、これ迄一年間も習いながら一人では着られず、会の皆様にご迷惑をかけておりましたが、これを機に一念発起して一人で着られる様挑戦したいと思います。
 幼少の頃、歌うのが大好きだった私に母が好きだった詩吟を習わせたいと申しておりましたが、実家は古事記に載っている手間山の麓で山深い周辺の環境にそれも叶わず、琵琶曲の中にある詩吟を唸る時、ちょうど20年前に他界した母に届けと、力が入ります。生きていたらどんなに喜んでくれた事でしょう。
 今後共、皆々様のご鞭撻の程、宜しくお願い致します。